シリーズ連載「作ろう!適正飲酒の生活習慣 その3」(全3回シリーズ)
~ 適量飲酒の10か条とは ~

医療法人社団こころとからだの元氣プラザ
統括所長 及川 孝光
(元氣プラザだより:2015年12月号)

適正飲酒の生活習慣を築くための5つのアドバイス

「適正飲酒の生活習慣」を築くために、皆さんに5つのアドバイスを送りたいと思います。

(1) 10か条を実践しよう

かつて、「酒道」という言葉がありました。酒道とは、華道や茶道と同様に飲酒を文化として捉えて、たしなむためのマナーです。酒道は、職場での密な関係の中で、自然に学ばれていくものでした。

しかし現在、酒道を学ぶ機会は、確実に減ってきています。自分から学んでいかなければならないのです。 現代の酒道として、そして表題の「適正飲酒の生活習慣」を築くために、ぜひアルコール健康医学協会の「適正飲酒の10か条」を実践してほしいと思います。全部マスターすれば、酒道の達人です。

図表8 適正飲酒の10か条

  1. 談笑し 楽しく飲むのが基本です
  2. 食べながら 適量範囲でゆっくりと
  3. 強い酒 薄めて飲むのがおススメです
  4. つくろうよ 週に二日は休肝日
  5. やめようよ きりなく長い飲み続け
  6. 許さない 他人(ひと)への無理強い・イッキ飲み
  7. アルコール 薬と一緒は危険です
  8. 飲まないで 妊娠中と授乳期は
  9. 飲酒後の運動・入浴 要注意
  10. 肝臓など 定期検査を忘れずに

出典:アルコール健康医学協会ホームページ

(2)気持ちのゆとりを持とう

「適正飲酒の生活習慣」を実践するためには、自己管理ができるような気持ちのゆとりを持ち、精神的に自立していることが必要です。そのためには、組織と個人の間でバランスをとっていく必要があります。仕事を一生懸命するのもいいのですが、あまりのめり込み過ぎてはいけません。望まない人事異動があるかもしれませんし、地方に転勤になるかもしれません。会社では何が起こるかわからないので、一喜一憂していたら身が持たないのです。

気持ちにゆとりを持つために、認知行動療法の考え方が役立つかもしれません。認知行動療法とは、ものの見方や考え方を直すことによって、気持ちを楽にして、前向きに考えようとするものです。ものごとの悪い面だけを見たり、すべて自分の責任だと決めつけたりせず、目の前の問題に対して現実的に対処できるようになることを目指します。いわ ゆる、自然体の心の受け止め方といえます。

健康問題というのは、心の余裕度と密接な関係があります。忙しくて心の余裕をなくし、健康管理がおろそかになる人もいれば、忙しいなりにきっちり健康管理できる人もいま す。後者の人は、いつ何をどれくらい食べるか、お酒をどのくらい飲むのか、もしくは飲まないのか、運動不足を自覚しているなら階段を使うようにするのか、自分で決めること ができるのです。これは、仕事の能力とも直結していると思います。健康管理や自己管 理ができる人は、仕事もできるのです。

(3)穏やかにNOと言おう

飲み会の誘いも、これから多くなってくると思います。体調が悪いときに、肝臓を休めたいときに、きちんと断ることができるでしょうか。

また、体調がよいので参加したとしても、イッキ飲みを促されるかもしれません。自分で自分の体を守ることは、とても大切です。

適切な自己主張をするためには、アサーティブという考え方が役立つかもしれません。アサーティブとは、相手だけではなく、自分も大事にした自己主張の技術のことです。自分の気持ちや意見を、相手の権利を侵さずに不快感を与えないように、誠実にかつ率直に自己表現することを目指します。宴会時の飲酒強要など、大量飲酒を避けたい時などにうまく使えるコミュニケーションテクニックです。

認知行動療法の考え方やアサーテイブ・コミュニケーションは、人生全般で役に立ちますので、興味のある方はぜひ調べて実践してみてください。

(4)定期健康診断を活用しよう

皆さんは、健康診断の結果をよくご覧になっているでしょうか。ぜひ見ていただきたいのが、血液検査での肝臓の数値です。法定検診では、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP(γ-GT)の3項目が必ず測定されています。

まずは、γ-GTPを見てください。飲酒量によりその数値が上昇するので、自分の飲み方が適正かどうかを判断する一つの目安になります。男性の正常値は50(IU/L)未満で、50以上なら飲酒によって負担がかかっている状態です。100以上の方は危険ですので、速やかに飲酒の量や頻度を減らす必要があります。ただし、大量飲酒してもγ-GTPが上がらない方もいるので、注意が必要です。

ASTとALTは、肝細胞内の酵素です。肝細胞が破壊されると、血中に多く出てきます。ASTがALTよりも優位になると、アルコール性肝障害のサインです。 ほかにも、中性脂肪や血糖、尿酸、赤血球容積の増加も大量飲酒者にはよく見られます。

お酒の飲み方は、皆さんそれぞれパターンがあると思います。その中でも特に気がかりなのは、週末大量飲酒です。血液検査の結果を見ても、毎日少しずつ飲む人より、数値が悪いのです。おそらく、一度に大量に飲むので肝臓の処理能力を超えてしまい、肝細胞自体が痛むのでしょう。皆ストレスを抱えて現実逃避したいので、度が過ぎるのだと思いますが、ほどほどに抑えていただきたいものです。

直近の飲み方がダイレクトに数値へ反映されるので、健康診断の結果をよく見てみると面白いと思います。これらの数値を見て、生活習慣を振り返り、ご自身の適量を知るためのヒントにしてください。

(5)職場環境を改善しよう

現代の問題飲酒や、メンタルヘルス問題の背景には、孤立感があることが少なくありません。以前の日本の職場にあった家族的な雰囲気が失われ、皆が多忙過ぎてお互いのコミュニケーションが悪くなっています。これに対処していくためには、職場環境や労働環境を改善していく必要があります。

かつて、企業にはアフター5というものがありました。上司が部下を連れて行って、お酒で緊張をほぐして、部下の不満や意見を本音で聞くというものです。しかし今では、部下が飲みに行きたがらなくなりました。そのため、上司もあまり部下を誘わなくなってしまっています。

現在、先進的な企業や組織では、職場のコミュニケーションを活発化させようという動きが始まっています。定期的に社内でミーティングを行い、各々が感じている問題点などを本音で言い合うのです。
エアコンの効きが悪いとか、デスクの配置がよくないとか、ささいなことで構いません。ある調査によると、職場間の意思疎通が改善され、生産性の向上が認められたそうです。

そして今、ノミニュケーションが見直されてきています。コミュニケーション不足を埋める手段として、お酒が注目されてきているのです。ある企業では、会社の飲み会に補助金を出しているそうです。逆に言えば、それくらいコミュニケーションの場が少なくなっているということだと思います。ただし、参加を強制しないこと、飲めない人への配慮を欠かさないことは絶対に必要です。

おわりに

飲酒運転による悲しい事故や、アルコール依存症者の孤独死が報じられると、お酒が悪いもののように感じられるかもしれません。しかしそれでは、お酒も気の毒です。

ある意味で、お酒は人生のスパイスです。そのメリットを認めた上で、それを引き出し、柔軟に取り入れていく寛容さが必要だと思います。慶応大学(旧)老年科の調査でも、百歳の方々は、喫煙はしませんが飲酒は適度にたしなまれておられます。

最後に一つ、提案します。たばこ対策の分煙の概念をぜひ飲酒にも取り入れて、"分酒"という取り組みを考えたいと思います。それは、もともと飲めない体質の方々と業務上飲酒不可の方々、依存症治療のため禁酒している方々、未成年者に対しての、アルコールフリーの社会環境整備です。

具体的には、会食の場での禁酒スペース・長距離列車の禁酒車両の提供、酒類販売のコントロールなどが挙げられます。飲める人、飲めない人の共存社会を目指しましょう。

平成25年12月の国会で、「アルコール健康障害対策基本法」が制定されました。不適切な飲酒行動に対して行政的なルールができるのは画期的です。産業現場からは表面に現れた事象のみならず、もっと根幹的な労働者の生活・労務環境の改善とメンタルヘルス対策の強化につながるような展開を強く願います。

文明発祥から存在する酒文化を健康的に育てる知恵が、現代人に求められています。

シリーズ連載「作ろう!適正飲酒の生活習慣」

ご精読ありがとうございました!

 

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